日本プロフィバス協会

世界で最も使用されているフィールドバスPROFIBUS
産業用Ethernetの標準PROFINET

PROFINETとは

産業用Ethernetについて

フィールドバス(PROFIBUSを含む)が工場現場サイドに普及して、現場機器をネットワークで接続するメリットが理解されてきました。現場内でのデータ通信用ネットワークで使用する限り、フィールドバスは信頼性、実績、リアルタイム性とも、問題なく使用できます。
しかし、最近ではさらに工場内全体のネットワークを統一するため、オフィス世界の標準通信仕様Ethernetを工場現場レベルの通信に拡張することが提案されています。
PROFINET(プロフィネット)はプロフィバス協会が提案する産業用Ethernetの標準です。
産業用Ethernetは、工場現場で使用するため、製造システムの厳しい要求に対応できる仕様を備えたEthernet仕様になっています。つまり、
  (1) リアルタイム性の確保
  (2) 信頼性の向上
  (3) 既設フィールドバスとの継続性
  (4) ITと制御通信の共存
が考慮されています。

PROFINET通信

図1に示すように、PROFINETは工場内のすべてのアプリケーションに1本のバスで汎用的に対応するよう設計された通信規格です。このためPROFINETには、以下の3つの異なるパフォーマンスレベルが存在します。
1) NRT(Non Real-time)
TCP/IPをベースとした通信となります。リアルタイム性を要求されないアプリケーション -たとえば、ユニット間通信、またはパラメータ通信などに使用されます。
2) RT(Real-time)
標準のEthernetハードウェア上にソフトプロトコルを追加し、4から10msec程度の周期で通信するリアルタイム通信を実現します。具体的には、Ethernetフレーム内のVLANタグ(IEEE803.1Q)で優先度を定義することでRTのフレームは、非リアルタイムデータ(NRTまたはTCP/IP等)より、高い優先度で処理されることになります。RTは、現在のフィールドバスとほぼ同等のパフォーマンスを提供できます。
3) IRT (Isochronous Real-time)
ある通信時間内に必ず通信が実行されること(Deterministic性)をRTより高いレベルで保証する方式です。通信の周期は最速31.25μsec、ジッタ(揺らぎ)は1μsec以下を実現できます。IRTはモーションコントロールのような厳しい実時間性が要求されるアプリケーションに使われることを想定しています。通信のハードウェアとして、スイッチ機能内蔵の専用ASICを使用し、Ethernetの通信帯域を分割してリアルタイム性の保証をしています。

図2はIRTのノードでの通信処理を図解しています。
ここで示されるように、通信フレームは、ノードに入った後、リアルタイムデータとその他(TCP or UDP/IPなど)と分岐されます。具体的には、PROFINETのリアルタイム通信(RTとIRT)はIEEEの定義した標準のEthernetフレーム内のEthertypeで[0x8892]として明示され、他の通信と区別されます。(注:IP通信ではこのデータは[0X0800]となります) RTとIRTのヘッダ部はTCP・UDPと比べて、簡潔に作成されているので、通信スタック内の処理が高速に実行できます。結果として、PROFINETは、工場内のあらゆるリアルタイム性の要求を満足すると同時に、汎用のTCP/IP通信とも完全に共存することが出来るようになるわけです。

PROFINETのアプリケーション

1) 制御アプリケーション
従来、フィールドバスで行っていたリアルタイムなデータ通信について、エンジニアリング手法を変えずに、そのままEthernet上で実現させることができます。つまり、PLCなどのコントローラと現場機器間のデータ、およびアラームの通信が主体となる通信です。

PROFINET上のコントローラと現場機器は、コンフィグレーション・ツールを用いてPROFIBUS DP/PAと同じ方法で結合されます。デバイスの特性は、XMLをベースとするGSD(General Station Description)ファイルに記述されています。GSDファイルには、デバイスの属性、モジュールの種別、モジュールの設定データ、エラーメッセージなど、エンジニアリングに必要とするすべての情報が含まれています。

PROFINETではPROXY技術を使用し、さまざまなフィールドバスシステムとも簡単に結合できます。ですから、既設システムで稼動しているフィールドバスの資産を無駄にしない柔軟なシステム構成が可能となります。PROFINETと統合できるフィールドバスは、PROFIBUSだけでなく、Interbusがあり、さらにはDeviceNet、FoundationFieldbus、AS-Iなどとの統合がプロフィバス協会のワーキンググループで討議されています。

2) モーションコントロールの同期制御
IRT通信を使うことで、EthernetのTCP/IP通信と、モーションコントロールの同期制御に代表される厳しいリアルタイム要求に、PROFINETは同時に対応することができます。
IRT通信では、図3に示すように、通信をサイクルに分け、1サイクルの中でリアルタイムデータと非リアルタイムデータの時分割を行ないます。この帯域分割は、PROFINET IRT機能を搭載するASICで実行されるので、Ethernet上のネットワーク機器にリアルタイム性を依存しないことが特徴となっています。
PROFINETではさらに、Fast Forwarding, Dynamic Frame Packing, Frangmentationといった技術を使って、リアルタイム通信の周期時間を最速31.25μsecまで早くすることができます。TCP/IP通信はこの周期時間でもリアルタイム通信と共存することが保証されています。
さらにPROFINETでは、異なる会社で提供される回転機器(インバータ、サーボドライブ)のインタフェースを共通化するプロファイル・PROFIdriveを用意しています。

3) 安全アプリケーション工場現場では、制御とともに安全に対するシステムが設置され、いわゆるシャットダウンシステムと言われています。
従来このようなシャットダウンシステムはリレー装置を使って構築されることがほとんどでしたが、近年マイクロプロセッサを使ったPLCでも十分安全システムに対応できることが証明されています。このようなPLCを使った安全システムでは、現場機器とのデータ通信もデジタル通信で行います。
PROFINETはPROFIsafeプロファイルを採用して、標準の制御通信と安全通信を1本のバスで行うことができます。

4) エネルギー管理
近年、エネルギーを大切にし、無駄なエネルギーを使用しないことが、環境にやさしい工場、そして企業に求められいます。
ところが、多くの工場では、生産活動を行っているときにだけ製造システムの動かし、生産活動が停止しているときには製造システムをストップすることができないケースが見受けられます。(例:休日でも製造システムの電源がONのままになっている)
生産活動をするときだけ製造システムをきちんと動かし、無駄なエネルギーを消費しないため、現場機器にON/OFFの指令を与えるのがPROFIenergyプロファイルです。

5) TCP/IPを使うメリット
PROFINETではリアルタイム通信とTCP/IP通信が共存します。したがって、エンドユーザにとって、より使いやすいオートメーションの環境を提供できます。
たとえば、
(1) ハードの通信線が1本でも、リアルタイム通信とTCP/IP通信(メッセージ、画像、音声等)を流すことができます。
(2) IEEEで規定された無線通信ができます。
(3) すべての機器がIPアドレスを持ちますので、汎用のpingコマンドなども使用できます。
(4) PROFINETでは、通信の管理をより易しくするため、すべての機器がLLDPをサポートし、Conformance Class B以上の機器はSNMPとMIBをサポートすることになっています。したがって、汎用のEthernetネットワークツールを使って、トポロジー(システム内の機器の接続状況)とか稼働状況を監視できます。
(5) Industry 4.0 、IoTなどで求められるクラウドどの通信が、間に中継機器を介さず、そのままできます。

Ethernet技術はTCP/IP技術によって進化してきました。PROFINETではこの恩恵をフルに受けることができます。

PROFINETのこれから

産業用Ethernetの流れは世界的に顕著で、すでにPROFINETを含めたいくつかの産業用EthernetはIEC61158、61785の規格となっています。
2004年末にはドイツの主要な自動車メーカ(AUDI AG 、BMW AG、DaimlerChrysler AG、Volkswagen AG)が今後、工場内で使用されるネットワークシステムにプロフィバス協会の提唱するPROFINETを採用する予定と発表しました。この発表を受けて、各オートメーションメーカにてPROFINETの開発は全世界で進んでいます。
各ベンダーの製品を採用したマルチベンダーでのシステム構築を保証するため、プロフィバス協会では認証テストを実施しており、2015年には認証試験に合格したPROFINET機器が1000を超えたと発表されました。
日本プロフィバス協会でもPROFINET認証試験を2014年から開始しています。

プロフィバス協会は、プロセスオートメーションに対応するPROFINETについても、開発進めており、ディスクリート制御だけでなく、プロセス制御にもEthernetを使用したネットワークシステムがサポートされることになります。この規格はAPLとして、フィールドコムグループ、ODVAとPI(PROFIBUS & PROFINET International)の3団体が進めています。
また、2019年にはEthernetでリアルタイム性を実現する新しいIEEE規格であるTSNをサポートする予定です。

産業用Ethernetはオートメーションのネットワークの新しい流れです。従来のフィールドバスと共存しながら、工場ネットワークの可能性を広げていくと考えられます。というのも産業用Ethernetは従来のネットワークシステムの置き換えではなく、新しい、そして柔軟性のある機能をプロセスに付加することができる新しい技術だからです。ネットワークがこのような方向に進む原因は、ベンダー主導ではなく、ユーザからの要求によるものだということは十分留意しておく必要があるでしょう。

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